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名古屋高等裁判所 昭和41年(ネ)561号 判決

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用及び書証の認否は、被控訴代理人において「控訴人岡博が被控訴人に対しその主張の如き金一〇〇万円を支払つたことは認めるが、これは控訴人岡博が被控訴人に寄附したものであつて、本件土地の権利金及び賃料ではない。仮りに本件土地の貸借関係が賃貸借であるとしても、それは一時使用を目的とする賃貸借である。

被控訴人は本件土地にゴルフ練習場用の仮設小屋を建築することを許可したが、住宅を建築することは許可していないし又別紙第二目録記載の四、六、七、八、の各建物建設については被控訴人は承諾を与えていない。又本件土地は控訴人岡博が自らゴルフ練習場として使用するために貸与したものであるから、同人が控訴人株式会社末広ゴルフクラブに右土地を使用せしめることは契約違反である。よつて被控訴人は本訴において右土地の貸借契約を解除する」と述べた。

証拠(省略)

控訴代理人において「仮りに被控訴人が本件土地の賃貸借につき宗教法人法第二三条の手続をなさなかつたとしても、控訴人岡博は善意であつたから、右賃貸借の無効は同控訴人に対抗することを得ない。本件土地は室内ゴルフ練習場建設のために賃貸借されたものであるから、控訴人岡博が本件土地上に右練習場及びこれに附属する建物、管理者の居宅等を建築することは初めから被控訴人において承認していたものである。なお本件土地賃貸借が一時使用を目的とするものであることは否認する」と述べ、証拠として当審証人松見三郎の証言及び当審鑑定人早川友吉の鑑定の結果を援用し、甲第五、六号証の成立は不知、と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、被控訴人が昭和二九年九月一〇日控訴人岡博に対し、別紙第一目録記載の土地を、ゴルフ練習場用として、期間を一〇年と定めて貸与したこと、及び同控訴人がその主張の如き金一〇〇万円を被控訴人に支払つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで右土地の貸借が使用貸借であつたか或は賃貸借であつたかについて案ずるに、成立に争いのない甲第一号証によれば、被控訴人が右土地を控訴人岡博に使用せしめることの謝礼として同控訴人は被控訴人に寄附金一〇〇万円を納入すること、同控訴人が右寄附金を納入しないときは被控訴人において直ちに右土地の貸借契約を解除することができる旨定められていることが認められるから、被控訴人の土地使用許可と控訴人岡博の寄附金納入とは互に反対給付の関係に立つていることが認められる。そして土地所有権が相手方に反対給付をなさしめて土地の使用を許可する場合には、それが賃貸借となることもあり、又賃貸借にあらざる有償貸借契約ないしは負担付使用貸借となる場合もある(最高裁昭和三八、一二、二六民集一七巻一二号一八二七頁、同昭和二六、三、二九民集五巻一七七頁)。そこで本件土地の貸借が右のいずれに該当するかは、右寄附金が民法第六〇一条所定の賃金に該当するか否かによつて決すべきであるが、右寄附金が金銭であることは明らかであり、そして右寄附金が本件土地使用の謝礼であることは前記認定のとおりである。又当審鑑定人早川友吉の鑑定の結果によれば本件土地の賃貸借について権利金五〇万円、一〇年間の賃料前払として金五〇万円は、決して不当に安過ぎるものではないことが認められる。かような諸般の事情を総合すれば、右当事者は本件土地を使用せしめる義務と右寄附金支払とを対価関係に立たしめる意思で相互に出捐契約をなしたものと解するのが相当である。よつて右寄附金一〇〇万円は本件土地の権利金及び貸料であり、従つて本件土地の貸借関係は賃貸借であると解するを相当とする。被控訴人提出援用にかかる全証拠によるも右認定を覆すに足らない。

二、次に右賃貸借につき借地法の適用があるか否かについて案ずるに、当事者間に争いのない本件土地がゴルフ練習場用として貸借された事実、原審証人大島屋哲三の証言及び原審における被控訴人代表者本人尋問の結果を総合して成立を認め得る乙第一号証、見取図の部分を除きその余の部分は成立に争いのない乙第二号証、原審証人松見三郎、同岩沢周一、同岡文枝の各証言を総合すれば本件土地は控訴人岡博がゴルフ練習場として客の来集を目的とする場屋を経営するために借受けたものであり、従つて雨天の場合でもゴルフの練習ができるような建物を建築し、又そのゴルフ練習場経営のための事務所、管理人の居宅、物置等を建築所有することが、右土地賃貸借の目的であつたことが認められる。

被控訴人は右土地の賃貸借は一時使用を目的とする賃貸借であると主張するので、以下この点について案ずるに、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果及び当審証人高木好夫の証言を総合すれば被控訴人は本件賃貸借締結当時から本件土地にビルデイングを建設する計画であつたことが認められるが、然し被控訴人が右契約締結の際これを控訴人岡博に伝えて、特に賃貸借期間を一〇年と定めたことを認めるに足る証拠はないし、又単に賃貸借期間を一〇年と定めたということだけで当然に右賃貸借が一時使用を目的とする賃貸借となるものではない。一時使用を目的とする賃貸借とは、賃貸借が臨時的であり、且つ当事者双方とも期間満了後は賃貸借を継続する意思がなく、そうしてそういう事情が客観的且つ具体的事実によつて裏付けられている場合をいうのであるが、本件賃貸借には右要件が具備していることを認めるに足る証拠がない。よつて被控訴人の本件賃貸借が一時使用を目的とする賃貸借である旨の主張は採用できない。

以上の理由により本件賃貸借は借地法の適用を受ける賃貸借であると解するを相当とする。

三、そこで本件賃貸借の期間について案ずるに、被控訴人と控訴人岡博とが本件土地の貸借期間を一〇年と定めたことは当事者間に争いのないところであるが、右契約は借地法第一一条によつて無効である。

然し、右当事者が賃貸借期間を一〇年と定めたことは、できるだけ短期を約束する趣旨とみるべきであるから借地法第二条第二項の趣旨に従い、当事者の定めた賃貸借期間を二〇年に延長してその効力を認めるを相当とする。そうすれば本件土地の賃貸借は昭和四九年九月一〇日まで存続するものというべきである。

四、以上の理由により被控訴人が貸借期間の満了を理由として、控訴人等に対し、建物収去、土地明渡等を請求することは失当であるというべきである。

五、被控訴人は、控訴人岡博が本件土地に居宅等を無断建築したことは本件土地の使用目的違反であると主張するが、前記認定の如く、本件土地賃貸借の目的が、客の来集を目的とする場屋の経営を目的とするものである以上、その管理人の住居を建設することは当然のことであり、これを以つて本件土地の使用目的違反ということはできない。又右賃貸借は建物所有を目的とする賃貸借であるから、控訴人岡博がゴルフ練習場経営のために必要な建物を本件土地に建築することは、仮令被控訴人に無断でこれをなしたとしても何等賃貸借契約に違反するものではない。

被控訴人は、本件土地は控訴人岡博が自らゴルフ練習場を経営するというので貸与したものであるのに、同控訴人が株式会社末広ゴルフクラブを設立して同会社に本件土地を使用せしめ、同会社をしてゴルフ練習場を経営せしめているのは、本件土地使用権の無断譲渡であり、契約違反であると主張するが、本件土地に建設された建物の所有権を控訴人会社に譲渡したことを認めるに足る証拠がないから、控訴人岡博が本件土地の賃借権を控訴人会社に譲渡したとは認め難い。控訴人岡博が控訴人会社をしてゴルフ練習場を経営せしめていることは当事者間に争いのないところであるが現在控訴人岡博が控訴人会社の代表取締役となつていること及び原審証人岡文枝、同岡進の各証言並びに原審における控訴人岡博本人尋問の結果を総合すれば、控訴人会社は税金対策上、控訴人岡博の個人企業を会社組織に改めたものであり、その実体は岡博個人経営の当時と何等異るところがないことが認められるから、控訴人岡博が控訴人会社をして右ゴルフ練習場を使用せしめても、これを目して賃貸借契約を継続し難い背信的行為ということはできない(最高裁昭和三九、一一、一九民集一八巻九号一九〇〇頁参照)。

以上の理由により、控訴人の使用目的違反、或は使用権の無断譲渡等を理由とする被控訴人の本件賃貸借契約解除は無効である。

六、被控訴人は本件土地の賃貸借契約は宗教法人法第二三条第二四条により無効であると主張するが、仮りに被控訴人が同法第二三条所定の公告をなさずして本件賃貸借契約を締結したとしても、控訴人岡博が右公告がなされなかつたことを知つていたことを認めるに足る証拠はなく、却つて弁論の全趣旨によれば、控訴人岡博は右公告がなされないため本件賃貸借が無効になるなどとは些かも知らずして右賃貸借を締結したことが推認できる。よつて被控訴人は宗教法人法第二四条但書により、右賃貸借の無効をもつて控訴人岡博に対抗することができないものというべきである。

七、以上認定の理由により、被控訴人の控訴人岡博に対する建物収去、土地明渡の請求は失当であり、又控訴人岡博と控訴人会社間の本件ゴルフ練習場の貸借が仮りに本件賃貸借契約違反であるとしても、これが被控訴人に対する背信的行為であるとは云えないこと、前記認定のとおりであるから、被控訴人は控訴人会社に対して本件土地の使用を差止めることができず、従つて被控訴人が控訴人会社に対して建物退去、土地明渡を求めることも亦失当であるというべきである(最高裁昭和三九、六、三〇、民集一九巻五号九九一頁参照)。

八、よつて被控訴人の本訴請求はこれを棄却すべきであるに拘らず、原判決がこれを認容したことは失当であり、原判決はは取消を免れない。よつて右認定の趣旨に従い、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

別紙

第一目録

名古屋市中区東田町二丁目中五工区五八ブロツク二八番

一、二七一坪五合三勺(四、二〇三・三九平方米)の内

二三三、〇二平方米(七〇坪四合九勺)

旧地中区東田町二丁目一五番地一、〇五二坪四合二勺(三、四七九・〇六平方米)

第二目録

名古屋市中区東田町二丁目中五工区五八ブロツク二八番

家屋番号 二丁目一五番の二

一、居宅 木造瓦葺平家建

床面積 五二・九五平方米(一六坪二勺)

附属建物

二、ゴルフ練習場、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建

床面積 三一・〇七平方米(九坪四合)

三、事務所、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建

床面積 一〇・九〇平方米(三坪三合)

四、ゴルフ練習場、木造亜鉛葺平家建

床面積 二〇・三〇平方米

五、事務室、木造亜鉛葺平家建

床面積 七・一四平方米

六、物置場、木造亜鉛葺平家建

床面積 四・五九平方米

七、物置場、木造亜鉛葺平家建

床面積 五・〇四平方米

八、居宅、木造瓦葺平家建

床面積 一四・一七平方米

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